アーシュラ・K・ル=グウィン / Ursula K. Le Guin「夜の言葉 / The Language of The Night」

 子供たちを信頼しなくてはいけない、とわたしは思います。尋常な子供なら、現実とファンタジーの世界をごっちゃにしたりはしません。『裸の王さま』のお話のなかである偉大なファンタジー作家も指摘しているとおり、ごっちゃにしてしまう割合は大人のほうがずっと多いのです。ユニコーンは本当にはいないということも、本当にはいないけれどユニコーンのことを書いてある本はそれが良いものならば、真実の本なのだということも、子供たちにはちゃあんとわかっているのです — パパやママなんかよりずうっとちゃんと。それも道理、子供時代を否定することで大人は知識の半分を放棄してしまったので今ではもう彼らには〝ユニコーンなんて本当にはいないんだ〟というかなしい、不毛な、貧しい知識しか残されてはいないのですから。おまけにそれは知っていたからと言ってなんの足しにもならない事実です。「むかしむかし、一ぴきの竜がおりました」とか、「とある地中の穴ぐらに、ひとりのホビットが住んでおりました」とか — こういった美しい非現実的な語りをとおしてこそ、わたしたち空想的な人間は、独自のやり方で真実に到達することができるのです。  -    アーシュラ・K・ル=グウィン / Ursula K. Le Guin