アーシュラ・K・ル=グウィン / Ursula K Le Guin「夜の言葉 / The Language of the Night」

 さて、おとぎ話に登場する悪は、善の対極にあるなにかではなく、陰 - 陽のシンボルのように善と固くからみあって離れないものなのです。善も悪も互いを凌ぐものではないし、人間の理性や道徳の力で二つを切りはなしてどちらかを選ぶこともできません。主人公や女主人公はなにをするのが適切かを見ぬく者なのであって、それは彼らに善悪のいずれよりも大きな全体が見えるからなのです。彼らの行いの勇敢さは、彼らの確信のもたらす結果に他なりません。主人公は規則にしたがって行動しているのではなく、ただ進むべき道を知っているのです。
 盲目的本能を信じて進んでいかなければならないと思われるこの迷宮には、フォン = フランクの指摘によればひとつの、唯一の、一貫した規則というか、 "倫理 " があります。「動物たちに感謝されるか、あるいはなんらかの理由で動物たちに助けられる人物が必ず勝利を得る。これがわたしに発見できたただひとつの、間違いのない規則である」
 言いかえれば、わたしたちの本能は盲目ではないということです。動物は理性を働かせはしませんが、見ぬきます。そして確信をもって行動します。"正しく "、適切に行動するのです。あらゆる動物が美しいのはこの理由によるものです。道を、家へ帰るための道を知っているのは動物です。わたしたちの内なる動物、原始人、暗い兄弟、影の魂こそが案内人なのです。  -    アーシュラ・K・ル=グウィン「夜の言葉  6 - 子供と影と」