中島敦 / Atsushi Nakajima「李陵・山月記」

挿画:原田維夫 / Tsunao Harada


 趙の邯鄲の都に住む紀昌という男が、天下第一の弓の名人になろうと志を立てた。己の師と頼むべき人物を物色するに、当今弓矢をとっては、名手・飛衛に及ぶ者があろうとは思われぬ。百歩を隔てて柳葉を射るに百発百中するという達人だそうである。紀昌は遥々飛衛をたずねてその門に入った。 -  中島敦 / Atsushi Nakajima「名人伝」